落差 〜不倫の定番と教科書問題を描く

落差 (角川文庫 緑 227-13)
松本 清張
角川書店
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おすすめ度の平均: 4.5
5 公務員に群がる人々の悲哀
4 教科書出版に暗躍する人々



松本清張さんの本を読むと、あぁここに原点があったのかと思うことがよくある。
この本では、今では少し古くなったかもしれないけれど、日本でよく見られる不倫の形が描かれていると思う。
清張さんの描く時代はいつも妻の立場が盤石なものとして描かれ、不倫をされていても動じない女性(妻)の姿がある。
昔はこんなもんだったのかなぁと思いつつも、僕の知らないどこか違う世界のようにも感じられる。
最後の展開はいかにも不倫の最後の行き着く先といった感じで、これが少し前のドラマの原点かと思わず納得してしまう。(今でも清張ドラマは人気だけれど)

そして、しかし、このメインストーリーは実はサブでしかなく、清張さんが読者に読んでもらいたかったのはこれではないということに気がつくのは容易だろう。それは「教科書問題」。
僕は、義務教育機関の教科書問題無償配布なんて、なんの疑問も感じず、癒着などにつながるなんて思いもよらなかった。検定に通り、選定されれば、企業としてはそれなりに盤石な収入源につながることはわかる。また、国家としては検定することで、ある一定の思考の操作を行うことができるだろう(それは一部の記述が消えただので今でも「新しい教科書をつくる会」などで問題になっているね)

こういった社会的な問題を、スキャンダラスな男女の問題と絡めて描く清張さんはすごいなと思う。こうやって、国民に問題提起しているのだと思う。それができる作家は今いるのだろうか。いや、できるのだろうけど、売れないのだろうなぁ。